2010 初・攻防戦



ずっと強い視線を感じている。
首元がちりちりするような、そわそわするような、その視線。
 
「…なぁ」
「ん?」
「さっきから、やったらそいつに見られてんだけど」

彼女の首元にどっしり居座っている生き物。
冬場に見られる襟巻きよろしく、くるりとテマリの首を温めているそいつ。

「…え?ああ。奈良に興味でも持ったかな。触ってみる?」
「いや…遠慮する。」

決して好意的ではないその視線。
触れた途端に鋭いカマでやられそうだ。間違いない。

「動物嫌いなのか?たくさん飼ってるんだろ、鹿」
「飼ってるんじゃねぇ…。あんたのそれだってペットじゃないだろ?」
「当たり前だ。…にしてもホントお前を見てるな。…カマタリ、こいつは頭が堅いからおいしくないぞ」
「…オイ」
「それにきっとお腹壊すから、やめておいたほうがいい」
「何だよそれ……ってか、こいつ人食うのか?」
「人の口寄せ動物に「こいつ」とは何だ?――イヤだね、カマタリ。この中忍、隙だらけだから、今度ちょっと痛い目見せてやれ」

隻眼の小動物に話しかけるときは、分かりやすくテマリの表情は柔らかくなる。
会話の内容はえげつないのに、なんだ、この差別。

「洒落にならないからヤメレって。で、いつまでこいつはいるんだ?業務外だろ?」
「任務とかなくても私とこの子は仲良しなんだ。――ね」

にっこりとテマリが笑いかけると、くりっとした頭をその頬にこすりつけて来る。
ふかふかする、と、幸せそうにテマリもそのちんまい頭に顔を埋めている。
…ムカつく。

「寒いんならマフラー買ってやるから。行こうぜ。」

とりあえずさっさとこのチビスケには退出してもらって、視線を気にせずのんびりと過ごしたい。
 
ぺちん。

「って!」

背を押そうと延ばした手をはばむように、的確に得物を狙う、凶器のような尾に頬をひっぱたかれた。 さすがカマイタチ。目にも留まらぬ早業だ。

「……」
「嫌われてんな、お前。」

怖くないぞカマタリ、と、それはそれは優しくやさしーく、小さな頭を撫でる。
テマリに愛情を注がれながら、未だ視線をこちらから外さない隻眼。
無表情だと思っていた瞳と口元。
が。
今、一瞬ちろりと赤い舌を見せ、不敵な笑みを作った。

…このやろう。




-了-





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