ショウ・タイム 1



9:14 プロローグ





「すまないな、わざわざ風の国から赴いてもらうことになってしまった。」
「いえ、有益な調査に携われて光栄です。」

 火影執務室の朝は澄んだ空気がすがすがしい。付き人シズネを後ろに控えさせた綱手の前には、任務の依頼のために呼び寄せたテマリ、そしてその隣にはシカマルが並んでいる。

「まあ…うちの里だけで派遣してもよかったんだが、ぜひ他の里の意見も取り入れたかったんだよ。お前は選抜試験にも携わってきているし頭も回る。宜しく頼む。」
「…はい。」

 謙遜しているのか、少し困ったような表情でテマリは応える。

「本当は3人で組んでもらおうと思ったんだがちょうど適任がいなくてね。悪いが2人で任務に当たって欲しい。お前ら二人は長い付き合いだ。要領良く作業もできるだろう?」
「…人数は多いに越したことはないですけど、まあ、何とかしますよ。」

――頼もしいな。砂の上忍より僅かに年少になるシカマルの返事に、綱手は微笑みをこぼす。
 
「では、任務を言い渡す。2点についての調査を依頼したい。」

 ゆとりのある執務机に火の国北部の広域地図を広げ、すでにマークがしてあるポイントの上に指を置いた。

「1つ目は廃城の調査だ。歴史のある城なんだが50年以上も手を入れられていない。試験会場として改築できるか実際に目で見て確認して欲しい。」

 広域地図の上に、報告用のチェック用紙と手書きのような城の見取り図が載せられた。

「…ただ、この廃城なんだが、抜け忍の巣窟になっていたとの報告もあり、地下から天守閣に至るまで特殊な仕掛けや古い術式が残っているかもしれないので注意してくれ。」

 続いてまた広域地図に戻り、先の廃城の位置からゆっくりと北へ指を進める。火の国の中でも北端の国境に近い場所に次の印があった。

「そして2つ目は、蓬莱山の第81演習場の点検だ。」
「第81演習場って確か…。」
「そう、閉鎖して5年ほど使っていない。他の演習場と比べて、対自然サバイバル目的に多く使われてきたんだが……メンテナンスが大変でね。ただ、再来年以降に復活させるという提案が出ているんで一度現状を把握しておきたいんだ。ここに点検項目を列挙してあるんで、一つずつ確認して欲しい。」

 先ほどよりも確認項目が複雑になった用紙が数枚渡される。追加資料らしき過去の利用状況の報告書もあった。

「廃城からは1時(いっとき)もかからず到着できるだろう。ただ…この演習場は霊峰の地形を利用して作られた演習場なんで、山岳・寒冷地帯になる。蓬莱颪(おろし)という北風が吹き、ここら一体のエリアはやたら寒いんだ。これからは積雪で吹き溜まりのようになるから、まだ積雪も少ない今の内に済ましておきたいんだよ。」

――シズネ。後ろに控える付き人に声を掛けると、抱えていた鞄を指示を受ける2人に見やすいように執務机の上に置いた。

「全体のスケジュールとしては、本日午後に城の調査、明日の午前で演習場のチェックをする感じになるだろう。明日は体力も消耗するだろうし、今夜はしっかり休息をとって備えてほしい。あと、こっちで準備もしておいたが、防寒対策だけはしっかりしてくれ。」

 トン、と帆布でできた鞄を手入れの行き届いた指先でつついた。鞄はコンパクトで邪魔にならない大きさではあったが、しっかり荷が詰め込まれているようだった。
 次いで、机の引き出しを開き、見た目にもごつい鍵の束を取り出す。

「大きいやつが演習場のマスターキーだ。小さいやつが演習場管理棟のものだから、宿泊に使え…あそこらは野宿は無理だからな。先月利用したやつもいるからライフラインは機能しているはずだ。」

 後は何かないか…と虚空に視線を漂よわせていたが、何かを思い出したように視線を二人にあわせる。

「ああ、演習場近くの街中には小さな湯治場もあるから余裕があれば立ち寄ればいい。まあなに、厄介な任務のせめてもの役得だと思え。ちょっと詰め込んだスケジュールになるから、スピーディな移動が必要になる。すまんな。問題がなければ、明日の夕方には充分戻ってこれるはずだ。」

――ああ、説明にずいぶん時間をとってしまったな、すまない。時計の方にさっと目をやった綱手は、出立を促しているようだった。

「テマリ、慣れない気候で大変かもしれないが、ぜひ、客観的な意見をどんどん出してほしい。シカマル、お前の頭を遺憾なく発揮してくれることを願っている。」

有無をいわせない笑顔で、二人にはなむけの言葉を発する。送られる2名は背筋を正した。
 
「ぜひ、良い報告を待っているぞ、二人とも。」 




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