ショウ・タイム 3


10:23 ACT1:任務開始





 任務地へと進む道すがら、のどやかな風景はやたら秋めいていた。自分生まれた砂の里とは違い、巡る四季の賜物である色彩豊かな自然や水分を多く含む風の匂いに心が洗われるようだ。

「いい日だな――。」
「まったくだぜ、何でこんな日に寒冷地くんだりまで赴かなきゃなんねえんだか…。」
「……そんなに寒い場所なのか?」

 平地にある砂漠の気候で生まれ育ったテマリは、地形により気候区分が変わるということが理解できない。四季のある火の国はもちろん、降雨の激しい雨隠れなどにも任務で訪れたことがあったが、山岳地帯に宿泊したことなどなかった。

「寒いのは苦手なんだよ…体が鈍る。」
「へぇ?砂漠も夜は寒いんだろ?」
「日中と夜間の温度差は驚くほど激しいな。でも、湿度の高い寒さってのは慣れないんだ、私たちの国の人間は。」
「…そういうもんかね。」

 歩を進め里を離れるにつれて、人工物が少なくなり自然の割合が高まっていく。
 
「お前の国は四季があるからな、そういう耐性があることは良いことだ。」
「耐性なんてほどじゃねぇぜ。ゆっくり気温と湿度が一年を通して変化するだけだ。山間部はまた違う気候だからな。」
「山岳地帯は気候が急激に変化するんだよな…なんか不安だね。荷物に何が入っているか、ちょっと確認しておこう。」
「そうだな。」

 地図によるとそろそろ峠の入り口に到着する予定だった。峠越えの時は木々を伝い疾走することができる。その前に一度、身辺と荷物について確認しておいた方がよさそうだ。
 道の脇に木材置き場となっている広場を見つけ、シカマルが持っていた帆布の鞄を開ける。
 
「…これは食料か…乾パンとチョコレート?…まるで登山グッズだぜ。」
「綱手さまは、もしものときのことを考えてくれているんだろう。」
「どっちかってと防災セットか…。」

 ぎゅっと詰め込まれた鞄に手を入れると、中からわさわさと内容物が出て来る。自分にはぱっと理解できないものもいくつかあった。

「これは?」
「カイロだな…寒い時に揉んで酸化させると熱を発するんだ。」
「へえ。面白いな。」
「あ、蝋燭と懐中電灯と発電式のライト。」
「…とりあえず何でもつめこんでるな。」
「防寒用のマントもある。木ノ葉で忍に貸与されるやつだな。」

 一番下にはコンパクトに圧縮された防寒用のマントが敷き詰められるように入っている。そして、その陰に隠れるように横倒しになっていた五合瓶。

「…酒だ。」
「酒?」
「どーりで鞄の大きさの割に重たいはずだぜ。」
「あ、なんか書いてあるぞ。」

 酒瓶の横に文字の書き綴られた懐紙が貼り付けてあった。

『酒は百薬の長…寒冷地では気付けにも使われるらしいぞ。今晩だけは認める。必要ならば使うといい。』

「ああ、雪山の遭難者に犬が与えるとかいうそういう効能な。」
「てかこれブランデー…アルコール度数45度。」

――流石は酒豪。木ノ葉の長を務める女性はやはり豪胆だ。けれどもこうなるとやはり懸念を抱いてしまう。

「……なあ、やっぱり相当寒い可能性があるんじゃないのかな。綱手様はあの三忍…色々な国を巡って、戦ばかりじゃなく様々な 環境を経験してるんだろう?」

「まだ秋だぜ…まさか。むしろ色々な国を巡っていたっていうのも、各地でギャンブルしていた時の方が有名だったな。というわけで、重たいからここ で置いてかねぇか。」

「ちょっと待て、綱手さまがせっかく入れてくれたんだぞ?ただ酒豪だからって入れたりしないだろう。ぜったい意図があるんだ。」
「…慎重だな、アンタ。」
「慎重になるに越したことはないだろう?初めてのことなんだから。」
「ま、いいけどよ。」
 
 ぶつくさいいつつもシカマルは荷物をもう一度纏め上げ、地図を見直す。スケジュールを照らし合わせると、ずいぶんとのんびりと移動していたことに気づかされる。
 
「できるだけ早く管理棟に到着できるよう、これからちょっと急ごうか。」
「ああ、到着が早い分、いくらかマシだろうな。」

 よっこらせ、と年寄り臭く荷物を背負いなおすシカマル。幾分か徒歩のスピードを上げて、峠の入り口に向かう。

「――あ、でも温泉は入るからな。寒くてもこれは譲れないね。」
「おい悠長だな、温泉旅行気分かよ。」
「砂の里にはないんだぞ。それにいくら急いでも私はこの任務は完璧にやるからな。綱手さまに抜擢してもらったんだから。」
「そんな大仰なもんじゃねぇだろ。」
「私は他里からわざわざ招聘されているから、それぐらいの意気込みなんだ。お前こそ気が抜けてるぞ。」
「やる気満々だな……。」

 なんでこの男はこう覇気がないのか。肘で軽く小突いてせっついてやる。

「よし!まずは温泉のために頑張ろう。」




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