ショウ・タイム 10


11:28 エピローグ





「…以上が報告です。」
「――そうか、ご苦労だったな。ありがとう。」

 テマリの任務報告を聞き、報告書を眺めながら綱手は硬質な声で応える。

「…申し訳ありません。任務の途中だったのに…。」
「いや、気にするな。風影直々に伝令を出してきたんだ、きっと重要な任務なんだろう。」

 綱手は、いつもの快活な雰囲気を見せることなく、始終冷静な表情を崩さない。今日の火影室は、いつになく緊張感が漂っていた。

「では、何か合同調査などがあるときはお願いするかもしれない。そのときはまた頼む。」
「…はい。」
「テマリ、これからシカマルに別件があるから、今日はシズネにお前を送らせるから。」
「はい、いつもすみません。」
「では、いきましょうか、テマリさん。」
「――失礼しました。」

 テマリは、綱手に最敬礼をし、次いで横にいるシカマルにも頭を下げ退出していく。火影執務室の扉は重たい音を立てて閉められた。
 人口が半分になってしまった室内に、しばし、冷たい沈黙が横たわる。

「……では、シカマル、報告をしてくれ。」
「え?さっきあいつがした通りっスよ。詳細は文面にて後日提出するんで――。」

 突然能面のような無表情が崩れたかと思いきや、表れ出たのは般若のような形相。

「そんな報告期待していない…。」
「ぇえ?」

 これだけ心身共に疲労困憊しながらも昨日の任務は一応完了させたのに、その任務を全否定された。けれど、今のこの人の状態でまさか、口答えができるはずもなく。

「…何のために、私がこのクソ忙しいときに時間と費用かけて上げ膳据え膳用意したと思っているんだ。ええ?この腰抜けがッ。」
「――。」

 握られた拳で、ダンッと、本気で机を殴る。もう体裁も何も無く、自らが進んでカモになった博打好きの火影は、怒りを全部シカマルにぶつけてくる。

「あんだけの時間、あんだけのシチュエーション、危険よりどりみどり吊り橋効果もたっぷりだったのに、甘酸っぱい関係だけで終われるお前はなんなんだ!?あぁ?このすっとこどっこい!!」
 
 なにやら取り出した書類を机に投げつけたかと思えば、ばさりと、昨日からの行動の観察報告書と数枚の写真が広がった。ぱっと目に入ったものだけでも、なにやら絶妙なタイミングでしっかり自分たちが納められている。さぞかし、こちらの本部は盛り上がっていたのだろう。

「犬も食わないような痴話喧嘩やら、温泉やら夜の散歩やらお子ちゃまなお前なりにお楽しみだったようだけどねえ?ったく使えない男だよッ。」

 賭けに負け理不尽に怒り狂う里の代表に対しては、逆らわず無言でやり過ごすことが最善であると今までの経験で学んでいた。嵐が過ぎ去るまで、ひたすらに耐えるのみ。
 かなりの額をつぎ込んでいるはずなのだ。これぐらいは、耐えてやっても良い。
 自分もずいぶんと成長したな、と思う。


※ ※ ※


 昨日から続く散々な一日の終わりに、アカデミーの屋上から見る里の夕陽は穏やかだった。
 睡眠不足もあり、完全に気を抜いてただぼんやりとこの町並みに視線を泳がせていた。
 時間の経過の感覚さえも無くなってきた頃に、突如、こちらに近づく気配が現れる。流石にその経歴だけある。自分の視界に入る直前までは一切の気配を消していたようだ。

「や、お待たせ。」
「……おめでとうございます。」
「いやあ、こちらこそご協力ありがとう。」

 ヤマトは、柔らかい面に共犯者の笑みを浮かべている。任務のチームで一緒になったことこそなかったが、業務関連では暗部の取次ぎなどで色々とお世話になっていた。

「…散々な一日でしたよ。無駄に体使うし眠れねぇし…ま、たっぷりご馳走になりますから」
「任せとけー。焼き肉どころか、老舗の懐石料理やスッポンフルコースだって余裕でばっちりOKだ。一人勝ちだったからね。」
「でも、まさかヤマト隊長からフォローが入るなんて思ってなかったっスよ。」
「ははは。巻き添え食わされてからの思いつきだったんだけれどね。慣れているハヤブサで良かったよ。重複指示を聞き分けてくれた。」

 昨夜、雪の中にいたハヤブサは、木ノ葉への報告を終えて雪山に戻る時にヤマトからの密書を運んできていた。手に入れたオッズ表といくつかの指示のおかげで、この迷惑な遊びに翻弄されることもなく、また、分配にありつくこともできた。
 ずいぶんな扱いを受けてはいたが、これでずいぶんと溜飲を下げ、耐え忍ぶことができたのだ。

「いや、ボクだって暗部時代から色々こきつかわれているから、たまには、ね。…それに、あまりにごりごりの設定を用意しているからさ。嵌められた二人が自然じゃない結果に終わるのはあまり良くないな、なんて。」
「ご配慮、ありがとうございます…。」

 優しい表情が一転して崩れ、悪戯を企むようなとっつきやすいものになる。

「で、どうなのよ。」
「…本当に、何もないっすよ。」
「そこそこ美味しかったんじゃないの?」
「…どんな報告がされてたんスか…。」
「木ノ葉の暗部の底力なめてるな。色々な意味で激しかったって聞いたけど?」

 まあ、確かにジェットコースターのような一晩ではあったけれど。

「汚ねえなあ…でも、監視されてることで助かった部分はありますけどね。ヘタすると五代目のシナリオ通りに…流される可能性もあったわけで。」
「…若いなぁ。」

 実際、きわどい場面は幾度かあったのだ。けれども、かなり恥ずかしい思いをして、ヤマトの指示通りの関係を維持した。
 
「まあ、面倒なことばかりだったけれど、振り返ってみればなかなか良い経験でした。」

 温泉観光も、一つ屋根の下で朝を迎えることも公認でできるなんて、そんなにないだろうし。

「なんか、ボクはあまり二人のプライベートのことは知らないけどさ。皆の話やら、今回の報告を聞いている限りだと…。」

――とても良い関係なんじゃないの?

「まあ、ホントのところは二人にしかわからないもんだよね。」
「実際、オレも分からないことばかりっスよ…。」
「ああ、いいねー、青春だねえ。」
「…青春してるつもりはないんですけど。」
「……お前、オレより先に結婚するなよ。けっこうへこむから。」







-終劇-




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